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狩野昊子
ロシア語の比喩・イメージ・連想・シンボル事典 −植物−
東京: 株式会社 日ソ, 2007. 693 с. 9784787430 H2603    税込価格 6,300

 [紹介文]

東京大学名誉教授      
                                    米重文樹      

 本書は400以上の植物名について、題名の示す通り、それらがロシア語として持つイメージを提示したものである。「まえがき」にも記してあるように、「ロシア文学作品中、どうしてこの語がこの箇所に使用されているのか理解できないことが多かった」いう著書自身が直面した極めて正当な疑問が本書の出発点となっている。以後長年にわたる地道な用例収集と丹念な仕分けを経て提示されたイメージ世界は、驚くほど多面的かつ重層的である。
 一例として、ロシアの代表的な木であるシラカバをひもといてみると、植生分布と造園の解説から始まり、ロシアの風土・生活の中でシラカバの持つ実用面についての情報、日本人にもなじみの深い民謡の中でのイメージ、そして文学作品の中での人格化・具象化へと世界が広がっていく。それぞれの項目を読み進めることによって読者は、その広がりが、幹と枝葉のそれに似て、互いに連関・共鳴していることを豊富な用例を通して実感することができる。また、他の植物との関連性、例えば民謡の中でのシラカバの木(若い女性)に対するカシの木(若い男性)についてもそこで言及してあるので、読者は「дуб」の項目を見ることによって、更にイメージの世界が広がっていく。また、個々の植物名のみならず、「木」、「花」、「果物」、さらには「緑陰」、「庭」といった項目も立ててあって、興味をそそる。中でも「хлеб」の項目は、大地と人間の営みのシンボルとしての「穀物・パン」が民衆生活、宗教儀礼において持つ意味が余すところなく伝えられている。
 本書の大きな特徴のひとつは、個々の植物についてギリシャ・ローマ世界におけるイメージが詳細に取り込んであることである。これも同じく「どうしてこの語がこの箇所に使用されているのか」という著者自身の疑問の中から生まれたものであるが、そこに提示された情報が文学作品の解釈に際して資するところはきわめて大きい。例えば、「カシ」およびそれに巻き付く「ツタ」が「勝利」を意味する古代ギリシャの伝統がロシアの文学作品の中で生かされていることが実際の用例でもってよく示されている。

 豊富な用例の用例たるゆえんは、著者が註を付さないかたちで、言い換えれば、固定的な解釈を与えることをしないでそのまま提示してあることであって、これにより読者は自らの目で自らなりのイメージの構築を試みることもできる。一方、時間的に余裕のない読者は日本語解説を拾い読みすることも可能で、例えば、文学作品中でのシラカバの使用頻度が1位になるのは1918年以後であること、本来ロシアには自生していないアカシアがロシアで植えられるようになったのは18世紀であること、貴族の庭園での植樹の持つステイタス的意味など、興味深いヒントが随所にちりばめられていて、読み物としても楽しめる事典となっている。

[ページ見本]
БЕРЕЗА
    以下省略

ХЛЕБ
 以下省略

まえがき